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福島地方裁判所 昭和46年(行ウ)9号 判決 1976年4月19日

原告 医療法人為進会

右代表者・理事 湯浅恭一

右訴訟代理人・弁護士 今野昭昌

遠藤寛

被告 福島県郡山県税事務所長 飯沼正雄

右訴訟代理人・弁護士 堀切真一郎

鈴木芳喜

渡辺健寿

右指定代理人 河野英司

<ほか二名>

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、全て原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日までの事業年度(以下「四三年度」という。)につき、昭和四五年一二月二五日付をもって、昭和四四年四月一日から昭和四五年三月三一日までの事業年度(以下「四四年度」という。)及び昭和四五年四月一日から昭和四六年三月三一日までの事業年度(以下「四五年度」という。)につき、昭和四八年五月一五日付をもって、昭和四六年四月一日から昭和四七年三月三一日までの事業年度(以下「四六年度」という。)につき昭和五〇年四月三〇日付をもって、それぞれなした各法人事業税更正処分は、いずれもこれを取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、寿泉堂松南病院を営む医療法人である。

(一) 被告は、昭和四五年一二月二五日付で原告の四三年度の法人事業税に関し、課税標準額二五一六万四〇〇〇円、税額一九八万三一二〇円、加算金九万九一〇〇円とする更正処分をなし、その旨原告に通知したので原告は右更正処分に対し、昭和四六年一月一四日福島県知事に審査請求をしたが、同知事は、同年九月一八日右請求を棄却する旨の裁決をした。

(二) 被告は、昭和四八年五月一五日付で原告の四四年度の法人事業税に関し、課税標準額三七一七万一一九七円、税額二九四万三六八〇円、四五年度の法人事業税に関し、課税標準額二五五四万八四二四円、税額二〇一万三八四〇円とする更正処分をなし、その旨原告に通知したので原告は右更正処分に対し、昭和四八年六月三〇日福島県知事に審査請求をしたが、同知事は同年七月二五日右請求を棄却する旨の裁決をした。

(三) 被告は、昭和五〇年四月三〇日付で、原告の四六年度の法人事業税に関し、課税標準額一〇五五万六〇〇〇円、税額八一四万〇四八〇円とする更正処分をなし、その旨原告に通知したので、原告は右更正処分に対し、昭和五〇年六月三日福島県知事に審査請求をしたが、同知事は、同年七月八日右請求を棄却する旨の裁決をした。

2  しかし、原告の決算は、四三年度において一二七万三一六四円、四四年度において九〇万五〇六九円、四六年度において二八八万〇三四四円の各欠損を生じ、四五年度については所得零であるから、右いずれの年度についても、法人事業税の課税対象となるべき所得は存在しない。

3  被告が本件各更正処分をなすに至った所以は、地方税法第七二条の一四第一項但し書の解釈を誤ったことにある。

(一) 同法第七二条の一四第一項但し書の法意は、社会保険診療を保護し、その負担の軽減を図ることを目的としたものである。従って、右但し書の「医療につき支払を受けた金額は、益金の額に算入せず、また……(中略)……医療に係る経費は、損金の額に算入しない。」との規定は、社会保険診療に係る所得については、法人事業税を課さない趣旨であって、社会保険診療につき所得がない場合(欠損の場合)には、右の前提を欠くので但し書の適用はなく、法人事業税の課税標準算定の原則である同項本文の適用を受けるのである。

(二) 原告主張の右解釈を採らず、被告主張のように社会保険診療につき所得が生じたか否かを問わず前記但し書を適用すると、次のような不合理を生ずる。

(1) 医療法人以外の一般法人や社会保険診療をしない医療法人においては、一部門の損失は他部門における所得と通算されるため、全体として欠損を生じた場合には法人事業税を課されないのに、社会保険診療を行う医療法人が、社会保険診療部門の欠損ゆえに全体として欠損を生じたとしても法人事業税を課される結果となる。

(2) 社会保険診療部門を有する医療法人でも、同部門で所得をあげている法人は、それがいかに高額でも法人事業税を課されないのに、同部門につき欠損を生じた場合には何等の考慮もなされないこととなり、高額所得を有する医療法人をのみ優遇し、欠損医療法人には過酷な課税を強いる結果となる。

(3) 法人税との関係からみても、法人税においては、社会保険診療部門の欠損も通算されるため、右部門の欠損ゆえに全体として欠損を生じている場合には法人税を課されないのに、法人税以上に優遇措置を講じたはずの法人事業税においては(租税特別措置法第六七条第一項参照)かえって法人事業税を課される結果を生ずる。

(三) 前項(1)、(2)の差別は、社会保険診療部門に欠損を生じた医療法人を一般法人・社会保険診療部門を有しない医療法人・社会保険診療部門で所得を得ている医療法人と何等の合理的理由なくして差別するもので、憲法第一四条第一項に違反するものである。

4  以上主張のとおり、原告の前記各年度の法人事業税の課税標準となる所得はいずれも存しないのであって、被告の本件各更正処分は、いずれも違法であるからその取り消しを求める。

(なお、本件各更正処分による各年度の課税標準額が、被告主張の地方税法第七二条の一四第一項但し書の解釈に基づき算定された数額であることは争わない。)

二  請求の原因に対する被告の答弁

1(一)  請求の原因1は、認める。

(二)  同2は、否認する。

(三)  同3は、地方税法第七二条第一項但し書の法意が、社会保険診療の保護を図り、その負担の軽減を目的とするものであることは認めるが、その余の右規定の解釈及び憲法違反の主張は争う。

2  被告の主張

地方税法第七二条の一四第一項は、医療法人に対する法人事業税の課税標準算定方法として、社会保険診療による益金及び損金はいずれも他部門の益金及び損金に算入しないものとしており、原告主張のように社会保険診療部門が欠損の場合これを他部門の所得と通算することは、まさに社会保険診療経費のうち、同部門の診療収入を超える部分を当該医療法人の所得算定上損金に算入することを意味し、同条第一項但し書に反するものである。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求の原因1は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件の争点である地方税法第七二条の一四第一項の解釈につき、以下検討する。

1  ≪証拠省略≫を総合すれば、地方税法第七二条の一四第一項但し書は、議院立法に係るもので、社会保険診療報酬算定の基礎となる単価を定めるにあたり、社会的要請の観点から診療供給側の要求する高単価に応えることができないため、政治的解決として、税制面から右低単価を埋め合わせる優遇措置を講ずるため、右但し書は制定されたもので、これと同趣旨の医療法人に対する租税特別措置法第六七条第一項による法人税においては、社会保険診療により支払を受けた金額の七二パーセントを経費として損金に算入する結果、なおその所得に課税される余地があるのに対し、法人事業税においては、さらに一歩を進め社会保険診療に係る所得には一切課税しないこととされ、その算定の方法として、社会保険診療についてはこれにより支払を受けた金額及びそれに要した経費を当該医療法人の総益金及び総損金に算入しないものとされたのであることが認められ、これを左右する証拠はない。

2  そこで、右立法の経緯及び地方税法第七二条の一四第一項の規定の構造・文言等を勘案するに、同項但し書は、社会保険診療部門が欠損を生じたか否かを問うことなく、同部門より支払を受けた金額は総益金に算入せず、又これに要した経費は総損金に算入しないことを定めたものと解するのが相当である。

なるほど、右のように解すると、原告主張のように医療法人等の当該事業年度総所得金額が欠損のため法人税は課されないのに、法人事業税においては、右欠損額に社会保険診療による欠損額が含まれている場合には、その欠損額は総欠損額から控除される結果、総所得額が黒字に転ずる場合を生じ、かえって法人税以上に優遇措置を講じたはずの法人事業税が課されるという事態の生ずることが考えられるが、社会保険診療を行う医療法人の法人事業税の課税標準算定の方法を規定する地方税法第七二条の一四第一項は、法人税の場合と規定の体裁を異にするし、社会保険診療の保護育成をはかる立法政策の相異および同項但し書の文言を考慮するならば、右但し書を原告主張のように解釈することは無理といわざるを得ず、従って、右のような事態は現行法上容認されたところといわねばならない。≪証拠判断省略≫

三  原告の憲法第一四条第一項違反の主張について、考える。

1  原告は、医療法人以外の一般法人及び社会保険診療を行わない医療法人においては、法人事業税の課税標準算定上全ての収益及び経費が通算されるのに、社会保険診療部門を有する医療法人は、社会保険診療部門に生じた欠損を他と通算されないという不利益な扱いを受けることとなり、このように不合理な差別は、憲法第一四条第一項に違反する旨主張する。

しかしながら、地方税法第七二条の一四第一項但し書は、社会保険診療部門を有する医療法人は、同部門から得た所得については一切法人事業税を課さないという極めて大きな優遇措置を容認しているのであるから、一般的には社会保険診療部門を有する医療法人が不利益な扱いを受けているということはできないばかりか、現実的にも、ほとんどの医療法人が社会保険診療部門を有し、かつ同部門が税制上の優遇措置と合いまって経営上危険が少ないことは、公知の事実というべきであるし、また、社会保険診療を辞退することも可能である(例えば、健康保険法第四三条の一一第三項)ことを勘案するならば、右原告主張程度の不利益をもって、憲法第一四条第一項に違反する不合理な差別ということはできない。

2  原告は、社会保険診療部門で所得を上げている医療法人には、それがいかに高額であっても法人事業税を課されないという優遇措置が講じられているのに、同部門に欠損を生じた場合には、何等の考慮もなされないこととなり、このような不当な差別は、憲法第一四条第一項に違反する旨主張する。

しかしながら、地方税法第七二条の一四第一項但し書によれば、社会保険診療を行なう医療法人については、右部門につき所得があれば等しく法人事業税を課されない取扱いがなされるのであり、右部門につき欠損を生じた場合には、所得がないのでその部門につき法人事業税を課すことができず、従ってそれ以上の優遇措置はあり得ないというにすぎない。よって、右原告の主張も、失当というべきである。

四  被告は、地方税法第七二条の一四第一項但し書につき、当裁判所と同旨の解釈に基づき本件各更正処分をなしたもので、これに基づく計算関係については、当事者間に争いがないので、本件各更正処分は、適法というべきである。

五  以上の次第であるから、原告の本訴各請求は、いずれも失当として棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤邦夫 裁判官 岩井康倶 田中信義)

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